健康社会に寄与する研究開発と社会実装を目指して


   

  

    酒谷研究室は1989年にニューヨーク大学医学部(NYU Medical Center)の脳神経外科研究所(Neurosurgical Research Institute)で産声を上げました。1987年にポスドク(博士課程研究員)としてWise Young教授(当時)のもとで神経外傷に関する研究を始めましたが、1987年にWise Young教授の研究グループがNIHの脊髄損傷センターグラントを獲得したのです。私は電気生理分野のプロジェクトリーダーを担当しており、研究室を割り当てられたのでした。1993年に帰国し、札幌医科大学で脳神経外科専門医を取得しました。この間、浜松ホトニクスの筑波研究所で近赤外蛍光による生体イメージングや近赤外分光法(NIRS)の研究をはじめました。脳神経外科の臨床現場で3年間ほど勤務した後、1995年に中国・北京に渡り、日本のODAで設立された日中友好病院に勤務することになりました。浜松ホトニクスの晝馬輝夫社長(当時)にご挨拶に行くと、「中国に行くのなら、これを持っていけ」と同社のNIRS装置(NIRO500)をプレゼントして頂きました。装置を中国に持って行ったのですが、当時の中国はまだまだ発展途上の段階なので、NIRSのような先端医療機器はなく、病院の先生方には大変感謝されました。当初はボランティア(無給)でしたが、翌年からJICAの専門家として勤務することになりました。日中友好病院は日本のODAで設立されましたが、1500床を有する大規模な病院です。付属の臨床医学研究所に研究室を与えられ、NIRSや光イメージング法の研究を続けることができたのです。

    2003年より日本大学医学部脳神経外科に設立された光量子脳工学分野(浜松ホトニクス寄附講座)でNIRSなどの光学的生体計測の臨床研究をはじめました。2012年に日本大学工学部に移籍し、統合生体医療工学研究室を設立しました。本研究室は、医学と工学の領域を統合した生体医療工学研究を行う福島県の拠点として設立されたのです。この研究室では、NIRS研究に加えて、IoTやAIなどの先端情報通信技術を活用したヘルステクノロジーズの研究をはじめました。特に認知症の早期発見を目指した研究開発に重点を置き、一般血液検査データから深層学習を用いて認知症リスク判定を行う方法を開発しました。また、これらの技術を用いた社会実装研究を郡山市のモデル地区やスポーツジムで始めました。

    2019年より東京大学大学院新領域創成科学研究科人間環境学専攻に設立されたユニバーサルスポーツ健康科学講座(ゼビオ寄付講座)を担当することになりました。本研究室が注力しているのは、疾病予防と介護ケア分野です。IoT・Big Data・AIなどの先端情報通信技術を活用した次世代地域包括ケアシステムを開発し、社会実装研究を行っています。本システムは、センサー技術を活用して見守りを行う在宅型健康管理システムと公民館やスポーツジムなどに設置し、脳機能などの生理機能を日常的にモニターする地域型健康管理システムから構築され、個人の健康履歴(Personal Health Record)を蓄積し、AIを用いて認知症、ストレス、フレイル、ロコモシンドロームなど中高齢者に多い疾患を早期に発見することを目的に開発されています。さらに、認知症に対しては、深層学習法を用いた認知症リスク判定法の改良と社会実装研究を進めています。

    酒谷研究室は、医学と工学の高度な技術と豊富な知恵を結集して、安心で安全な健康社会の構築に貢献できるよう全力で取り組んでまいります。

 

  • 酒谷薫 Sakatani Kaoru

    • 現職

      東京大学大学院新領域創成科学研究科人間環境学専攻 特任教授
      ユニバーサルスポーツ健康科学講座(ゼビオ)担当

                  

      早稲田大学 次世代ロボット研究機構・ヘルスケアロボティクス研究所 客員上級研究員(兼任)

      学位

      医学博士(大阪医科大学大学院、1987年授与)
      工学博士(北海道大学大学院、1998年授与)

      専門医

      脳神経外科専門医(1983年)

      受賞

      日本医師会医学研究奨励賞 (2010年)
      「光イメージング法を用いた脳の健康に関する生涯発達研究」

      略歴

      1981年 大阪医科大学卒業、阪医科大学大学院・脳神経外科学専攻入学
      1987年 大阪医科大学大学院修了、New York大学医学部脳神経外科・博士課程研究員
      1989年  New York大学医学部脳神経外科研究所・助教授
      1990年  Yale大学医学部神経内科・客員助教授(兼任)
      1996年  北京日中友好病院・JICA長期派遣専門家(脳神経外科分野)
      2003年 日本大学医学部脳神経外科学系・光量子脳工学分野 (浜松ホトニクス寄附講座) 教授
      2012年 日本大学工学部・電気電子工学科次世代工学技術研究センター 同経外科(兼担)
      2018年 稲田大学 次世代ロボット研究機構・ヘルスケアロボティクス研究所 研究院客員教授
      2019年 東京大学大学院新領域創成科学研究科 特任教授